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Windows上でIntel oneAPIをインストールする方法(Visual Studioなし編)

Intel oneAPIは、Intelが無償で提供している最新のコンパイラ軍(C++/Fortran/DPC++)や並列ライブラリ(MPIなど)を含む開発環境です。一般的には、Visual Studioと統合して利用されることが多いですが、Windowsのコマンドライン上で実行することもできます。この記事では、Visual Studioを使わずにIntel oneAPIをインストールし、コマンドラインやPowerShellから利用する方法をご紹介します。

目次

Intel oneAPIの動作環境

インテル oneAPI 2025.1(記事執筆時点)の動作環境はIntelの公式ページに記載されています。

対応しているWindows OSは、Windows 10, 11(Pro, Enterprise)およびWindows Server 2019, 2022, 2025で、Visual Studio 2019または2022(Community, EnterpriseまたはProfessional)(「C++ によるデスクトップ開発」コンポーネントがインストールされていること)をサポートしています。

詳細は、上記の公式ページをご確認ください。

Intel oneAPIのインストール

Intel oneAPIの中の2つのツールキットをインストールします。

  • Intel oneAPI Base Toolkit 2025.1.0
  • Intel oneAPI HPC Toolkit 2025.1.0

公式ページからこれら2つのインストーラをダウンロードし、実行します。

まず、Base Toolkitをインストールします。インストーラを実行して「Extract」を実行します。

「I accept the terms of the license argreement」にチェックを入れ、Recommended Installationの「Continue」をクリックします(インストールする内容を変えたい場合は「Customize」を選択)。

対応するVisual Studio(2019または2022)がインストールされている場合にはそれらに統合するか訊かれますが、Visual Studioがない場合はそのまま進めます

次に、ソフトウェア向上プログラムに参加するかどうかを訊かれるので、どちらかを選択して「Install」をクリックするとインストールが開始されます。

「Installation in progress」の画面に移動します。進捗率が100%になったら、インストールが完了です。

 次に、HPC Toolkitをインストールします。インストーラを実行して「Extract」を実行します。

「I accept the terms of the license argreement」にチェックを入れ、Recommended Installationの「Continue」をクリックします(インストールする内容を変えたい場合は「Customize」を選択)。

対応するVisual Studio(2019または2022)がインストールされている場合にはそれらに統合するか訊かれますが、Visual Studioがない場合はそのまま次に進みます

次に、ソフトウェア向上プログラムに参加するかどうかを訊かれるので、どちらかを選択して「Install」をクリックするとインストールが開始されます。

「Installation in progress」の画面に移動します。進捗率が100%になったら、インストールが完了です。

Microsoft C++ Build Toolsのインストール

Microsoft C++ Build Toolsは、Visual Studio本体をインストールせずに、C++のビルドに必要なコンパイラやライブラリだけを導入する仕組みです。

具体的には、Microsoftが配布しているMSVC(Microsoft Visual C++コンパイラ)と関連ツールのパッケージで、Visual StudioのID(エディタやデバッガ)は含まれず、ビルド環境だけ提供します。

主に以下のような用途で使われます。

  • CMakeやNinjaなどでのビルド環境を整える
  • 他のIDE(Visual Studio Codeなど)から利用する
  • Visual Studioは重いのでインストールしたくない人向け

Intel oneAPIのコンパイラは、Windows上ではMSVCのヘッダーやライブラリに依存しているため、Visual Studioをインストールしない場合でも、Microsoft C++ Build Toolsを入れておく必要があります。

インストーラは公式ページからダウンロードできます。インストール時に「C++ によるデスクトップ開発」を選択して、インストールします。

個人開発では問題ありませんが、商用利用などの場合にはライセンス規約をご確認ください。

インストールが完了したら環境変数を設定します(Windowsの「環境変数の編集」から登録できます)。これにより、コマンドラインプロンプトやPowerShellがビルドツールにアクセスできるようになります。

環境変数
VS2022INSTALLDIRC:\Program Files (x86)\Microsoft Visual Studio\2022\BuildTools

一時的に変更する場合には、次のコマンドを用います。コマンドラインプロンプトの場合は、

set "VS2022INSTALLDIR=C:\Program Files (x86)\Microsoft Visual Studio\2022\BuildTools"

とし、PowerShellの場合は、

$env:VS2022INSTALLDIR = "C:\Program Files (x86)\Microsoft Visual Studio\2022\BuildTools"

とします。

Intel oneAPIの環境設定

コマンドラインプロンプトやPowerShell上でIntel oneAPIを使用するには、まず環境設定を行うバッチファイル(setvars.bat)を実行します。これはコマンドラインプロンプトやPowerShellを開きなおしたら毎回行う必要があります。

コマンドラインプロンプトの場合は、

"C:\Program Files (x86)\Intel\oneAPI\setvars.bat"

とし、PowerShellの場合は、

cmd.exe "/K" '"C:\Program Files (x86)\Intel\oneAPI\setvars.bat" && powershell'

とします。

動作確認

FORTRANの場合

Fortranの場合は、次のコードをtest.f90という名前で保存して使用します。

    program Test

    implicit none

    ! 変数

    ! Test の本文
    print *, 'Hello World'

    end program Test

そのファイルのあるフォルダまで移動して、次のコマンドを実行します。

ifx -o test test.f90
./test

その結果、"Hello World"の文字列が表示されます。

C++の場合

C++の場合は、次のコードをtest.cppという名前で保存して使用します。

#include <iostream>

int main()
{
    std::cout << "Hello World!\n";
}

そのファイルのあるフォルダまで移動して、次のコマンドを実行します。

icx -o test test.cpp
./test

その結果、"Hello World!"の文字列が表示されます。

MPIの使用方法

FORTRANの場合

Fortranの場合は、次のコードをtest_mpi.f90という名前で保存して使用します。

program hello_mpi
  use mpi
  implicit none
  integer :: ierr, rank, size

  call MPI_Init(ierr)
  call MPI_Comm_rank(MPI_COMM_WORLD, rank, ierr)
  call MPI_Comm_size(MPI_COMM_WORLD, size, ierr)

  print *, "Hello from rank ", rank, " of ", size

  call MPI_Finalize(ierr)
end program hello_mpi

そのファイルのあるフォルダまで移動して、次のコマンドを実行します。

mpif90 -fc ifx -o test_mpi test_mpi.f90
mpiexec -n 4 test_mpi

結果として、次の出力が得られます。

 Hello from rank            1  of            4
 Hello from rank            3  of            4
 Hello from rank            2  of            4
 Hello from rank            0  of            4

C++の場合

C++の場合は、次のコードをtest_mpi.cppという名前で保存して使用します。

#include <mpi.h>
#include <iostream>
using namespace std;

int main(int argc, char* argv[]) {
    MPI_Init(&argc, &argv);

    int rank, size;
    MPI_Comm_rank(MPI_COMM_WORLD, &rank);
    MPI_Comm_size(MPI_COMM_WORLD, &size);

    cout << "Hello from rank " << rank << " of " << size << endl;

    MPI_Finalize();
    return 0;
}

そのファイルのあるフォルダまで移動して、次のコマンドを実行します。

mpiicx test_mpi.cpp
mpiexec -n 4 test_mpi

結果として、次の出力が得られます。

Hello from rank 3 of 4
Hello from rank 1 of 4
Hello from rank 2 of 4
Hello from rank 0 of 4

「ファイル〇〇\etc\mpicc-〇〇が見つかりません」というメッセージがでる場合には、環境変数I_MPI_CCとI_MPI_CXXに"icx"を設定すると表示されなくなります。

まとめ

この記事では、Visual Studio を使わずに Windows 上で Intel oneAPI を導入し、コマンドラインや PowerShell から C++ / Fortran をコンパイル・実行する方法を紹介しました。

  • Intel oneAPI Base Toolkit と HPC Toolkit をインストールすれば、最新の Intel コンパイラを無料で利用できる
  • Visual Studio を使わない場合でも、Microsoft C++ Build Tools を導入することで C++ のビルド環境を整えられる
  • 環境変数の設定には setvars.bat を呼び出すのが確実
  • ifx (Fortran) / icx (C++) で Hello World がビルドできれば環境構築成功

Visual Studio の統合環境を使わずに、軽量な開発環境や CMake / VS Code / HPC クラスタ向けに oneAPI を利用したい方におすすめです。

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